素朴なプリントの陶器ボトル
仕上がりの違いを楽しんで。




イギリスでは、プラスチックが主流になる少し前まで、クリームやペースト状の食品は、こんな形の陶器のボトルに入れられ売られていました。美しいロゴデザインが、店先の棚にずらりと並ぶ姿を想像すると、今の暮らしとは違った豊かさを感じます。
古いボトルの大半は、銅版転写という方法で絵柄が印刷されていますが、時代が後になると、ゴム版でプリントされるものが多くなります。ゴム版は、インクに糊を混ぜて適当な粘度にし、判子のように直接押すというやり方です。簡単にできるのですが、文字がつぶれたり、写らなかったりします。細かいデザインには不向きですが、これはこれで雰囲気のある仕上がりになります。倉敷意匠の製品にも、この手法を使ったものがいくつかありますが、陶器ボトル類に関しては、すべて銅版転写の方法を使いました。銅版転写というのは、絵柄をエッチングした銅版にインクを刷り込み、プレスして和紙に絵を写し取ります。そして素焼したボトルにその紙を押しあて、上から水を含ませたタンポで叩いてやると陶器の素地に水分が吸い込まれ、同時に絵柄も吸い取られるという理屈です。この後、釉薬をたっぷり掛けて窯入れします。最近の量産陶器の絵付けは、プラモデルについているデカールシールと同じ原理で、水に濡らした絵柄シールを、釉薬を掛けて焼き上がった陶器の表面に貼り付け、もう一度低温で焼きつけるという方法が一般的です。シールが濡れている間は、陶器表面をすべらせて、位置を変えることができますので、きちんとまっすぐに貼ることができます。銅版転写 の場合は、絵柄を裏向きにした状態で、和紙を素焼きの表面にあてて写し取るわけですから、もう位置を動かすことはできません。プリント位置がずれたり傾いたりしたものが多いのは、このためなのです。
加えて、銅版転写に使うインクは水性の顔料です。油性インクのデカールシール方式と違って、高温の窯に入れますから、熱の具合によっては、絵柄が溶けて流れてしまいます。表面に小さな貫入(小さなひび割れ模様)がある仕上がりのものは特にこの傾向が強く、文字がにじんだり、うすくぼやけたりしてしまう場合があります。
もうひとつ、釉薬についても、薪材の使用後に得た雑木の灰を混ぜていますので、土石や鉄分などが含まれています。釉薬に合わせて素地にも自然土を使いましたので、釉薬や土に含まれる不純物が、その日の温度・湿度・炎の具合などによって発色することがあります。これは、人の力ではコントロールできない、予測しがたい変化です。このことを「窯変(ようへん)」と言って陶器の一つの味と考えます。
すべてが均一で、きれいな仕上がりになるようにと、技術はずいぶん進歩しています。けれど、倉敷意匠が作る陶器ボトルは、一つづつ仕上がりが違います。素朴なプリントの味わいを得るために、あえてこのやり方を選んで作られていることをご理解いただければと思います。