Masaaki Aoki
昭和42年   三重県生まれ。東京育ち。
平成3年   東京大学医学部保健学科卒業後、(株)ワコール入社。
平成12年   (株)ワコール退社。「益久染織研究所」の通い丁稚となる。
平成14年   「手染メ屋」開業。
日本一の立派な染め屋になるべく、日々研鑽中。
京都
手染メ屋さんと作るト
グ。
   
工房にお伺いしたのは、朝の雪がまだ残っていた2月。昼から火が照ってきたので「ちょっと柿渋染め干してきましょう。」と屋根に上がる青木さん。    


京都にて天然染め工房「手染メ屋」を営む青木正明さん。まずはその経歴がおもしろいのです。東京大学医学部保健学科に在学するのですが、自分の身を置く場所はここではないと悟ってしまいます。そこで、卒業後はもともと好きだった服作りの分野へ進もうと、アパレル会社に絞った就職活動を始めました。大手インナーウェアメーカーのワコールへ就職が決まりますが、その後で、勤務先が京都本社だと初めて知ったのでした。東京育ちの青木さんにとっての京都行きは、当初あまり気の進まないものだったのだそうです。ところが、材料マーチャンダイザーとして働きながら、繊維素材のことを知れば知るほど仕事がどんどんおもしろくなってきます。そんな中でエコロジカルなブランドを立ち上げようというプロジェクトがスタートし、前ページで紹介した「益久染織研究所」の廣田益久さんとの運命的な出合いにつながります。以前から大好きだった古着だけにしかあり得ないと思っていた『もやっとした』曖昧な色が、ここにずらりと並んでいるのを見てびっくりしてしまいます。そして、草木で染めた独特の色合いに心が踊り、仕事とは関係なくも、たびたび廣田さんを訪ねるようになっていました。そのころ、会社での立場も管理職に変わり、現場に出る機会が少なくなってきていました。製作のプロセスに関れることが生き甲斐だった青木さんにとって、そのストレスは堪え難いものになってきていました。益久染織研究所に出入りしているうちに、布というものが綿花の栽培から始まり、製糸、染色、織布までまったく一人の人間の手でも作ることができるという事実に気付かされました。いてもたってもいられず、先行きの見通しも持たないままワコールを退社し、この工房に弟子入りしてしまったのです。こうして、通い丁稚をしながら天然染めの修業が始まりました。幼い長男を抱えての冒険だったけれど、家族も「何とかなるわ」と応援してくれました。
修業も2年近くになったころ、お世話になった廣田さんのもとから独立し、京都に店を構えます。まずは、古着や素朴な色合いを好む人に向けて、Tシャツ作りから始めましたが、市販のTシャツは例外なく樹脂加工をしており、天然染料との相性がいまひとつ悪いのです。捜しに捜して見つけ出したアメリカ産オーガニックコットン糸を使用して、織り、縫製、パターンにいたるまですべてオリジナルのTシャツを完成させました。青木さんは、今や自分の好きなだけ、とことんこだわることができるこの仕事が楽しくてしかたないのだと言います。とても大きな方向転換をしたようにも見える青木さんですが、話を聞いていると、実は、いつも一番やりたいように道を曲げずに来ただけなんだということがわかります。学生時代のことも、会社人だった時のことも、これまでの経験が必ず次のステップに役立っているように見えます。
さて、倉敷意匠では「手染メ屋」さんとのコラボレーションで、天然染めのトートバッグを作ることになりました。もちろんオーガニックコットンで。表地は手紡ぎ手織りの綾織生地、裏地は横糸に茶綿を使ったシャンブレー生地です。青木さんが作り出す自然の複雑で優しい色目をどうぞお楽しみ下さい。



 
まず1色目が染め上がり、洗いをかけたところ。次に柄に合わせた絞りを施し2色目を染めます。   茜で染め上がった生地。こんなに鮮やかな色なのに、けして派手ではない不思議な色。
     
 
生地の奥まで染料が入るように、丁寧に揉みほぐします。仕事はゆっくりと、そして淡々と進みます。   上/京都御所のすぐ南に位置する築70年のハイカラな洋館の2階が工房兼ショップです。
下/定番カラーのTシャツがずらりと並ぶ。溜息が出る美しさです。


「手染メ屋」さんの天然染め商品のお取り扱いについて
手染メ屋さんでは、天然染料のみを使用し古来からの染め手法で仕上げているため、化学染料に比べ、やはり色変わりが早く訪れます。お気に入りの色をできるだけ長くお楽しみいただくため、以下のことをお守りいただきますようお願いいたします。

・天然染料の中にはアルカリや酸に弱いものがあります。洗濯は中性洗剤をお使い下さい。
・漂白剤は絶対に使用しないで下さい。一般の洗濯洗剤にも漂白剤が入っている場合がありますので、ご注意下さい。
・天然染料は、一般的にどれも長時間の日光照射に弱く変色しやすいものです。洗濯後は、日陰干しでお願いします。
・藍染めや、濃い色の商品は他の洗濯物に色が移る場合がありますので、必ず単独洗いして下さい。
   
「手染メ屋」さんの染め重ね無料サービスについて
それでも色というのは変わりうつろいます。商品の色が変わったり褪せたりしましたらご一報ください。可能な限り無料で染め重ねさせていただきます。その際、もとの色柄通りに再現することは出来ませんので、1色の染料で染め重ねすることになります。最初の柄がまったくなくなることはありませんのでご安心下さい。新しい色が加わることで、もとの色とは違った色をまたお楽しみいただけるよう染料を選ばさせていただきます。
この染め重ねサービスは破けるなどして商品が使用不可能になるまで有効です。
   


天然染料は、ほぼ例外なく漢方の生薬でもあります。左から、五倍子(ごばいし)、矢車附子(やしゃぶし)、茜(あかね)、檳榔子(びんろうじ)、柘榴(ざくろ)。


たたみ絞り
蛇腹に折った布の、染まってはいけないところにラップを巻き、染料がしみてこないようにしっかり紐でしばります。ラップの場所を変えながら、柘榴、木酢酸鉄、藍の順に染めては洗いをくり返します。
  くくり染め
茜で染めた生地に、型紙を使ってくくる場所へ印をつけます。ビーズ玉を入れて輪ゴムで縛り、矢車附子で染めます。輪ゴムをほどくと茜色のリング模様が出来ています。
  板締め
模様の位置関係を考えながら生地をたたみ、正方形の木片で布の両側をはさみます。木片が動かないように棒で押さえてしっかり紐で縛ります。藍で染めると、木片の跡が正方形の柄になっています。
  柿渋染め
柿渋で染めた生地の中央に、白い布を縫い付けてボーダー状にマスキングします。柿渋は、太陽の光を浴びることで焦茶色に発色します。色変わりを見ながら、夏場で5日程度、冬場は2週間くらい屋根の上に干します。