加成幸男さんの鍛鉄フ
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鍛鉄(たんてつ)とは、灼熱した鉄をハンマーで鍛えて造型したもののことを言います。加成幸男さんは人気の鍛鉄工芸家です。かつては消防署のレスキュー隊として働いていました。ところがこの仕事は、年齢を重ねるにつれて消防の現場からだんだんと離れていく仕組みになっているらしいのです。そのことに違和感を覚えはじめていた頃、鍛鉄の世界ではつとに有名な西田光男氏の工房がたまたま近くに引っ越して来ることになりました。縁があって手伝いとして通い始めますが、そのまま氏を親方として、修業の道に入ってしまったのです。昔から、鍛造の盛んであったヨーロッパの工房へ行くと、熊のようにいかつい大男ばかりなのだそうですが、その意味では、まさに加成さんは適任で、握力85、年に数回はフルマラソンにも出場します。前回、工房にお邪魔した時にも、長さ3メートルほどもあるらせん階段用の手すりが壁に立て掛けてありました。太いバーをコークス炉で熱しながら、腕の力でグイグイとねじ回していくのですからたいへんなパワーです。
ところが、倉敷意匠ときたら、細くて華奢なものや、小さなものばかりをお願いするもので、なんだか申し訳なくもなるのですが、今回もやっぱり小さな、壁掛け用のフックを作ってもらいました。ひとつずつ丁寧に仕上げられた鍛鉄の肌合いに一度触れてしまうと、どんなに小さなものでも、こうじゃないといけない気持ちになってしまうのです。フック上部のパネル部分がポイントで、壁にかけるとアートオブジェみたいにも見えます。なんだかかっこよくて、ものを掛けるのがもったいないようにも思えるフックになってしまったのでした。
ヨーロッパのスプーンの歴史というのは意外と浅く、銘々の前にナイフ・フォークやスプーンが並べられるようになったのは、18世紀に入ってからだそうです。中世の頃は、何人かに1本のナイフやスプーンが取り分け用に使われ、皆は、手食だったのです。中世末頃からだんだん数が増えてくるわけですが、このころのスプーンは金属を節約したため、作りが薄く、柄が細いので、なんだか頼りなくも見えます。けれども、スッと伸びた柄の形と、平べったくてイチジク型のボウル部分とのバランスの美しさには、妙に心引かれるのです。17世紀後半には、ボウル部分が卵型に変わり、柄が幅広く平らになってきます。このことによって重心がボウルと柄の境に集まりますから、ぐんと持ち易くなりました。
いつも鍛鉄でお世話になっている加成さんに、この持ちやすい形になる前の16世紀頃のヨーロッパのスプーンの写真を見てもらったのです。そして今度は、ステンレスでスプーンを作ってもらうことになりました。普段は、硬く冷たいイメージをともなってしまうステンレスですが、一本一本たたき出して形作られるこのスプーンを見ると、打ったままの質感がなんとも柔らかで素朴なのです。
実は、出来上がったスプーンを見て、韓国の平べったい真鍮スプーンに似ていると思ったのです。韓国スプーンは、ビビンバを混ぜ合わせるにはもちろん、カレーや炒飯の最後の一粒をすくい取るにもすこぶる都合いいと、多くの雑貨人を魅了しています。そうか!西洋のスプーンは、肉用・魚用・デザート用といった専用の道具として進化を続けてきたけれど、お箸1本を万能の道具ともする東洋の地では、中世のなごりの形が、そのまま今に引き継がれてきたわけですね。
打ち出しステンレスのスプーンは、銀のスプーンと同様、しまい込んだままにしておくと、表面が酸化して黒ずみが強くなります。歯磨き粉をつけた柔らかい布で磨いてやるといくらかきれいになりますが、普段から使っていれば特別に手入れの必要はありません。お客さまにお出ししてもきっと話題になるスプーンだと思いますが、使い込むほど良い風合いになりますから、ご自分用にがんがん使っていただきたいと思います。
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